北海道大学西村研究室との共同研究
共同研究機関
北海道大学 大学院先端生命科学研究院 西村研究室
共同研究概要
糖タンパク質,糖脂質などの複合糖質を構成する糖鎖は,癌をはじめとするアレルギー症,リウマチ,糖尿病などの生活習慣病を含む多くの疾患に深くかかわっており,「情報伝達・制御因子」として重要な生命機能を担っていることが明らかになっている.
バイオ医薬品開発は,欧米とのグローバルな戦いが行われており,糖鎖を利用した研究開発競争もその中にある. 糖鎖の機能を解明し,そこから新しい医薬品や医薬用基材を開発する事が世界競争に打ち勝つ事につながる.しかし,糖鎖の多様な機能が発現する仕組みは依然として多くの謎に包まれており,真に効率的で汎用性に富む複合糖鎖の構造及び機能の解析法が望まれる.
STS は,平成 15 年より,複合糖質研究の一大拠点である北海道大学西村研究室との共同研究により,効率的な各種解析ツールの開発を進めている.
共同研究成果
【 Glycoconjugate Data Bank の開発】
平成 15 年度より,同研究室と共同で複合糖質データベース「 Glycoconugate Data Bank ( http://www.glycoconjugate.jp ) 」の開発を開始する.現在「 Resources :糖鎖関連化合物情報を収録」,「 Structure :タンパク質立体構造データベース Protein Data Bank から糖鎖立体構造を抽出し収録」,「 Glyco-Net :糖鎖機能情報を収録」の 3 つのセクションを公開している.
【糖鎖 MS スペクトル自動帰属アルゴリズム開発】
同研究室の糖鎖プロジェクトにより開発された糖鎖パターン測定法を用いたデータ解析アルゴリズムを開発し,コンピュータ上に実装することを目的としている.照合用データベースには, MDSF 法*1 を用いて測定した MS 及び MS/MS スペクトルデータに糖鎖構造情報をつけて蓄積している*2 .これを照合データとして用いることで,未知糖鎖を測定した際に,スペクトルマッチングによりその糖鎖構造を同定できる.
一方,モデル糖鎖分子の量子化学計算によるグリコシド結合の結合エネルギーの見積もり,静電ポテンシャル計算によるマトリックスとの相互作用部位の予測を試み,計算結果と既知糖鎖断片化データの統計処理によるキャリブレーションから断片化指標を作成した.
これらを用いて糖鎖 MS スペクトルマッチングアルゴリズムを開発している.パラメータ設定可能な入力インターフェースの整備も行い,公開運用に向け準備中である.
*1 MDSF 法(マトリックス依存選択的断片化法): MALDI-TOFMS での糖鎖解析の際に,フラグメントイオンパターンの異なる 2 種のマトリックス 2,5-dihydroxybenzonic acid (DHB) と α-cyano-4-hydroxycinnamic acid (CHCA) を用いることで,効率的に糖鎖の構造情報を得ることができる.北大西村研により開発された解析法.
*2 蓄積したデータの一部 (N- 結合型糖鎖約 61 データと O- 結合型糖鎖 9 データ ) を,糖鎖構造情報などのアノテーションをつけデータ集として出版.「糖鎖の MALDI-TOFMS スペクトルデータブック」三共出版
【 MS ピークピックソフトウェアの開発】
MS スペクトルピークピック自動化ソフトウェア( MassAutomation )を開発し,北海道大学で大量 MS データ解析の運用を開始した.
上記事業の一部は『文部科学省 LP 「糖鎖機能を活用した新産業育成支援」( H14 年度補正)及び RR プロジェクト「糖鎖機能解明とデータベースの構築」』,『 H17 〜 18 年度 財団法人北海道中小企業総合支援センター 研究開発補助事業』によって開発された.